プラセンタエキス
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哺乳動物では、受精卵が子宮内壁に着床すると同時に胎盤が形成され始める。そして、胎児はそれを通じて母体から酸素や栄養の補給を受けると同時に、体内に生じた老廃物を排出するのであるから、いわば胎盤は胎児にとって、肝臓・腎臓・肺臓の役割を合わせ持つ“臓器”であるということができる。胎盤はそのほかにも造血、タンパク合成、有害物質の解毒作用を持つばかりか、ホルモンを分泌して母体の排卵や子宮の収縮を抑制したり、乳腺を発達させたり、子宮頸管や骨盤軟骨部を柔らかくし、分娩に際しては、子宮筋の収縮や乳汁の分泌を促進させる働きを持つ。さらに、妊娠初期に起きるつわりが次第に収まるのは、胎盤が完成することに関連するとも考えられている。
このように、胎内で生命を育て上げるという絶妙な働きを持つ胎盤への関心は古くからあり、約1400年前の薬物書『本草拾遺』(ほんぞうしゅうい)には「人胞」(じんぼう)と「胞衣」(えな)の名で、また16世紀に李時珍が編纂した『本草綱目』(ほんぞうこうもく)には「紫河車」(しかしゃ)の名で記録されている。これは肉食動物はもちろん、本来は肉をまったく食べない牛や馬のような草食動物さえ、出産直後に必ず胎盤をきれいに食べてしまうという事実に注目した結果である。江戸時代には日本でも「紫河車」を主剤とした「混元丹」(こんげんたん)や「牛車肉」(ごしゃにく)や「紫河車丸」(しかしゃがん)などが用いられた。いずれも。“虚を補う”もので、全身の衰弱、肺結核、貧血、気管支炎、喘息、子宮や卵巣の発育不全、神経衰弱などに使用されたのであるが、もちろん同時に不老長生、若返り、強壮・強精が期待されたことはいうまでもない。
胎盤の効用に科学の光が当てられた最初は、旧ソ連のフィラトフ博士(オデッサ医科大学)が組織療法に用いたことであるが、日本では1960年代以降、多くの大学研究室や民間研究機関でテストが開始され、胎盤に含まれる水溶性成分、脂溶性成分の解明、臨床研究、さらに成分抽出法の改良が行われた。酵素分解処理や凍結融解処理など各種の処理法によって違いはあるが、各種のアミノ酸、ペプタイド、ミネラル、ビタミン、酵素類、糖類などから成る生理活性物質が分析されており、さらに未知の低分子有機物の存在が推定されている。
次々に明らかにされた効用は非常に多岐にわたっており、末梢血行促進作用、細胞賦活作用、活性酸素除去作用、抗炎症作用、抗疲労効果、発育促進、造血機能の活性化、細菌感染に対する抵抗力増強、乳汁分泌の亢進、自律神経の調整作用などが認められているが、最近は抗アレルギー作用も明らかにされて花粉症や皮膚炎への対応が期待されているほか、発ガン抑制作用の研究にも新たに関心が寄せられている。
胎盤エキスは、すでに慢性肝炎、胃・十二指腸潰瘍、更年期障害などを適応症とする医薬品(注射薬)として認定されているほか、経口的に摂りやすいエキス類も各種提供されており、肌の若返りをめざす化粧品への活用も盛んに行われている。