韃靼蕎麦
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韃靼蕎麦(だったんそば)
ソバはタデ科の一年草で、原産地はアジア北・中部とされ、歴史的には早くからインド北部、東アジア各地へ伝播し、ヨーロッパでは15世紀に栽培が始まったとされる。日本への招来はそれより相当古いことで、すでに奈良時代には食用とされていたが、ついに五穀(米・麦・粟・黍または稗・豆)に加えられることはなく、冷害などの備荒食品とされてきた。それというのもソバの栽培には冷涼な気温が適し、酸性土壌にも強くて土地条件を選ばず、痩せた土地でも養分をよく吸収して、種をまいてから75日程度で収穫できる特徴があるためである。そうしてこの生命力の逞しさが飽食に疲れた現代にソバが復活する大きな要因となったようである。
日本ではソバに薬効を認める基盤は早くからあり、『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』には「気味甘く微寒にして毒なし。気を下し、胃腸の滓穢積滞(しわいせきたい)を寛(つまびらか)にす。水腫、白濁、泄痢(せり)、腹痛、上気を治し、あるいは気盛んにして湿熱あるものによろし」と述べられている。寒性なので胃弱の場合には不適であるとされながら、長寿の食物として好んで常食もされてきた。古くは麦飯のように脱穀したソバを米麦に混ぜた「そば飯」だったが、粉末にして丸めた「そば団子」に続いて、うどんを真似た「そば切り」が登場したのは江戸初期(17世紀)以降である。
以後、日本人の食生活に深くかかわりながら、一方では近代以降の栄養重視や食の欧米化の風潮の中で脇役の座に追われたソバであるが、ここへきて加工食品の氾濫や飽食、肥満、運動不足などで生活習慣病が多発することに対する反省の気運が高まり、伝統的食品への見直しが進んだことによって、ソバに新たな脚光が当てられるようになったのである。
ソバには豊富な栄養素が含まれているが、13%にも達するソバのタンパク質(小麦粉は8%)は必須アミノ酸のバランスがよく、タンパク価は89.7と非常に高い。ネズミによる実験では、小麦のタンパク質では発育が大幅に阻害されるが、ソバのたんぱく質の場合は標準成長曲線に近い成長をすることが報告されている。炭水化物も糖質69%、繊維1%、糖質はどの穀類のデンプンよりも糖化度が高い。ミネラルも、特にリンとカリウムが際立って多い。リンは補酵素となるしカリウムはナトリウム過多による血圧上昇を抑える。
そしてさらに特徴的なのは、ルチン(ビタミンP)の存在である((フラボン化合物でケルセチンとチノースから成る配糖体))。毛細血管の弾力性を高めるため、高血圧症に伴う眼底出血や打ち身などによる出血を抑える医薬品ともなっている成分であるが、更年期の火照りなどを改善し、ビタミンCの働きを助けてコラーゲンの生成や抗酸化作用を高めるのに寄与する。ビタミン類では、他にビタミンE、コリン((血管拡張作用を持つアセチルコリンの材料となる))の存在も見逃せない。
このようなソバの優れた栄養的特性と、食文化に占めるソバへの関心の高まりから、1980年以来3年ごとに「国際ソバシンポジウム」が開催されてきているが、そこでも注目されたのが生産量、消費量共に圧倒的に多い中国のソバであり、中でも中国北部での生産量が多い「韃靼蕎麦(ダッタンソバ)」である。これは花が赤みを帯び、実は小さく苦味が強いので、通称「苦蕎麦」とも呼ばれる。なお、日本その他で産するのは「普通ソバ」で、通称「甘蕎麦(甜蕎麦)」である。
栄養成分について四川省産の苦蕎麦と甘蕎麦を比較した中国商業部食物科学研究所の分析(1989年)によると、
| 苦蕎麦 | 甘蕎麦 | |
| 粗タンパク | 10.5% | 6.5% |
| 粗脂肪 | 2.15% | 1.37% |
| デンプン | 72.61% | 65.9% |
と、いずれも苦蕎麦のほうが高い値を示しているが、とりわけビタミンP(ルチン)は甘蕎麦が0.095~0.2%であるのに対し、苦蕎麦は2.55%と10倍以上である。ビタミンB群、ミネラル類、必須アミノ酸についても、総じて苦蕎麦は含有量が多い。
この栄養価のバランスや含有量の違いが、日常的に食べるものであるからこそ結果的に健康の維持に大きく影響してくる。苦蕎麦を常食する中国少数民族に高脂血症、高血圧、糖尿病、心筋梗塞が非常に少ないという中国における免疫調査は、北京私立北京中医医院、北京同仁病院、北京食料科学研究所などの共同研究により、動物実験ないし入院患者に対する臨床試験によって新たに確認され、これら降糖作用・降圧作用・降脂作用は「苦蕎麦の三降作用」として公にされている。