酵素
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酵素(こうそ)
酵素(英語でEnzyme)は、簡単にいえば「生体触媒」である。触媒とは、ある物質の化学反応に介在して反応速度をコントロールしながら、それ自体は変化しない物質であるが、生体内で同様の役割、物質の合成・分解作用が円滑に進むように触媒のような働きをするタンパク質、それが酵素である。このような酵素の働きを「酵素反応」といい、酵素反応を受ける物質を「基質」、酵素反応によってできた物質を「生成物」と呼ぶ。
酵素はその立体構造の一部に、基質と結びつくための「活性部位(基質結合ポケット)」があり、それを“鍵穴”とすれば基質は“鍵”ということになる。酵素が特定の基質にのみ作用するのは、このように鍵と鍵穴の関係があるためで、それを「基質特異性」という。そのほか酵素には、基質の濃度や、周囲の温度・pHに影響される性質、あるいは阻害剤があると働きが鈍るといった性質がある。また別の側面として、ある種の酵素は、それ自体では働かないが「補酵素」が結合すると酵素としての活性を持つものがあり、ビタミンはこの補酵素の主要な構成成分である。また、ある種の消化酵素のように消化管内でタンパク質の鎖が切れると活性を持つものや、リンなどの効果物質が結合したり分離したりすることで活性が変化するものもある。
わかりやすい例で示せば、ご飯を噛むうちに甘くなるのは唾液中の「唾液アミラーゼ」という消化酵素が、澱粉を加水分解して麦芽糖やデキストリンに変化させるためである。また、怪我をしたときのオキシフル(過酸化水素)消毒で盛んに泡が出るのは、血液中の「カタラーゼ」という酵素が過酸化水素を水と酸素に分解するためである。
このような酵素の働きは、例えばアルコール発酵のような形で活用されていた。チーズもそうである。日本人に馴染み深い味噌・醤油・漬け物なども、酵母菌の出す酵素の働きを利用したもので、原料のままでは食べにくく消化されにくいものを食べやすくし、消化吸収されやすい食品に変えるとともに、原料の持っている有効成分を引き出しやすくした食品である。
酵素の利用歴の古さに比べると研究歴は比較的新しく、胃液の消化作用の不思議さを調べるような実験が初めて行われたのは18世紀も中葉以降のことである。そして、体外に取り出しても働きを保つ有効成分として、胃液の中から消化酵素のペプシンが見出され命名されたのは1836年のことであり、アメリカの生物学者サムナー博士が鉈豆(なたまめ)から取り出した酵素によって、それがタンパク質であることを初めて証明したのは1926年のことである。
以後、次々に発見された無数の酵素は、生理学的な働きによって、消化酵素、呼吸酵素、筋肉酵素、凝乳酵素、凝血酵素、孵化酵素、発酵酵素などとも区分されるが、国際生化学連合酵素委員会では1965年、酵素を反応形式によって左記のように6種類に分類することを決め、それぞれの酵素の名称は、基質名や反応形式の語尾に「アーゼ ase」をつけること(例えば「タンパク質 protein」の分解酵素は「プロテアーゼ protease」というように)を決めている。
- 酸化還元酵素
- ある物質が酸素原子の付加、水素原子の除去、または電子の欠落によって変質することを酸化、その逆を還元というが、この反応は生体がエネルギーを獲得する呼吸や発酵などにも重要で、人体に多数存在する脱水素酵素もそれを触媒する酸化還元酵素の一つである。
- 転移酵素
- 生体内の有機化合物の一部分を切り離して他の基質に移し、多種多様なものに増やしていく作用をする酵素である(リン酸基の転移に関わる「キナーゼ」など)。
- 加水分解酵素
- 生体内の高分子化合物に水が反応すると、水の水素分子(H)を含む部分(低分子)と、水酸基(OH)を含む部分に分かれる(例えば蔗糖+水=ブドウ糖+果糖)が、このような化学反応に関与する酵素である。
- 脱離酵素(リアーゼ)
- 有機化合物の炭素同士、または炭素と酸素、炭素と窒素などの結合を切って、いくつかの化合物に分解する働きを持つ酵素。
- 異性化酵素(イソメラーゼ)
- 分子式が同じでありながら物理的または化学的性質が異なる物質を「異性体」というが、その異性体をAからBへ、BからAへと変換させる酵素。
- 合成酵素(リガーゼ)
- あらゆる活動に必要なエネルギーは、体内に蓄えられた「アデノシン‐三‐リン酸」から供給されるが、その化学エネルギーを利用して炭素と炭素、炭素と酸素など、2分子を結合して新しい有機物をつくるときに働く酵素。
植物性総合酵素
人体には数千の酵素があるといわれている。そして、酵素はすべて遺伝子に書き込まれた情報によってつくられ、それらが過不足なく働いて生命活動が維持されるのであるが、最近の研究では酵素の全量が体内生産されるのではなく、相当量が経口的に食物から摂り入れられることがわかってきている。その反面、現代の食生活は加工食品が横行して、そのほとんどは製造過程での加熱によって、熱に弱い酵素は失われる。また、添加された化学合成剤が酵素の働きを阻害していることは十分に考えられることである。こうした時代だからこそ、天然醸造の味噌・醤油・食酢など発酵食品をはじめ、新鮮な野菜や果物、海草などの自然食品の果たす役割が強調されるのである。
そのような認識が進む中で、酵素の働きを念頭に置いた健康食品も市場に提供されてきている。例えば「植物性総合酵素」といわれる健康食品群は、多種類の植物エキスを発酵させたものである。
相互に同一ではない各植物固有の酵素群が集まって多様化し、さらに発酵によってその働きが活性化されるとともに、多種類のアミノ酸、ペプチド、乳酸菌、ビフィズス菌、その他の植物性成分が消化吸収されやすい状態で含有されているのが特長である。
最近、このような植物性酵素食品に、がん細胞への直接的な攻撃排除効果ではなく、リンパ球(NK細胞)の活性化という、生体が本来持っている免疫機能を通じてがん細胞を攻撃する作用があることが見出されている。
有用菌と酵素
人間の腸内には、約100種、100兆個もの腸内細菌が住み着いているといわれ、食物や体調の変化に応じて有用菌と有害菌のバランスが変化しているのであるが、有害菌が増え始めると体調を崩して老化が進行し、それが新たな原因(悪化要素)となっていよいよ病気や老化に弾みがつくことが指摘されている。そのような中で注目されてきているのが、有用細菌である乳酸菌とビフィズス菌である。
ヨーグルトやケフィアなどは乳酸菌発酵の恩恵であり、発酵によって生じた多様な成分が複雑に作用して効果を生じていることが解明されてきているが、例えば乳酸菌の一種であるラブレ菌のように体内でリンパ球(NK細胞)の活性や酵素活性を高めることが見出されたことは、今後、有用菌と酵素の関係を考える上で大きな示唆を与えるものといえる。
有用菌として注目されるものにビフィズス菌もあり、乳製品にそれを加えたもの、あるいは大腸内でビフィズス菌の増加を促す働きを持つビフィズス因子(ラクチュース、フラクトオリゴ糖など)を添加した健康食品などもある。ビフィズス菌には便通の改善、腸内異常発酵の抑止、ビタミンをつくる、抗菌、発ガン物質の分解、免疫力の増進などの効果が認められているが、この免疫力の増進も体内の酵素活性を高める結果であることが考えられる。